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国軍企業の事業規模をフェルミ推定してみる

国軍系2社の開示資料は少なく、どの程度ミャンマー経済に食い込んでいるのかを正確に把握する方法は現状ありません。

何らかの数字がなければ、どのぐらい重要なのかイメージし難いし、議論が先に進まない。

そこで手に入る公開資料を基に、これら2社の事業規模を推定してみます。

(注)国軍企業とは何かについては以下をご参照ください。

(簡易的な)推定①

Amnesty International(2020)は、ミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)による配当金支払が1990年から指数関数的に増加し2011年には約200億チャットに上っていることを指摘しています。

2010年代もMEHLの配当が、名目経済成長率(実質成長率+インフレ率)に合わせて年率10~15%上昇したと仮定すると、2020年ごろには500~700億チャット又は、約40~60億円の配当原資を生み出している可能性があります。

これだけの情報からMEHLの生産額/売上額を類推するのは無理があるのは承知ですが、他に方法も見当たらないので、とりあえず国営企業合計の売上/利益の約10倍を使い、配当性向が100%近いとすると、MEHLの生産額/売上額は400~600億円ぐらいになります。(配当性向は100%より低かったり、そもそも利益を過少に計算している可能性が十分ありますので、保守的な仮定だと思います。)

更に、もう一つの国軍系企業:ミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)については、配当や売上など一切開示情報が見当たらないですが、設立が1997年で若干規模が劣ると思われますが、子会社はMEHLと同じぐらいあります。これら2社合計で100以上の子会社があることを計算にいれ、連結生産額/売上額は400~600億円の10倍程度を見積もっておきましょう。

これに従えば、国軍系2社の連結生産額/売上額は大体4000~6000億円というイメージになります。ただし、これはあくまでも、公式の統計に含まれるであろう数値の推定である点は留意する必要があります。

これだけだと如何にも根拠が薄そうなので、もう一つぐらいなんらか計算してみます。

(簡易的な)推定②

国連の報告によれば、国軍系2社の子会社、関連会社等の数は以下のとおりです。

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同2社子会社の約2割が鉱業関連であることに着目します。

他方、例えば、Myanmar Ruby EnterpriseやMyanmar Imperial Jadeは子会社として特定されているのの、これらの子会社(MEHLの孫会社)は上記表の数には入っていません。日本を含む先進諸国が支援する採取産業透明性イニシアティブ(EITI)は、ミャンマー政府に資料を提供してもらい現在までに第5次報告書を作成していますが、この中に出てくるMyanmar Ruby EnterpriseやMyanmar Imperial Jadeの多数の子会社(採掘ライセンスを多数所持)の名前は、上記リストには含まれておらず、上記数値よりも鉱業関連の割合が大きい可能性が高いことが読み取れます。

翡翠含む鉱業は1988年までは民間に解放されていませんでした。また、翡翠の有力な鉱区は、カチン州のいわゆるコンフリクトゾーンにある(マンダレー管区にも有力鉱区あり)ことを踏まえれば、激しく反発する少数民族武装勢力を押しのけ、国軍がこれら地域を支配下に置き、民間企業に鉱区を割り当ててきたことが容易に想像できます。実際、そのあたりの事情はGlobal Witness, 2015に多くの事例付きで紹介されています。

MEHLとMECは、こうした鉱区での採掘ライセンスを多数持ち、民間企業や外国企業との合弁事業として採掘ライセンスが数多く取得していることが確認できます。MEHLとMECの子会社、孫会社、ジョイントベンチャーを含めれば、翡翠産業のかなりの割合に関わっている可能性が高いと言えます。ちなみに、Glogal Witness(2015)は、採掘ライセンスを保有する数百社の実質的支配者は10~15名の有力者であるとの話を紹介しています。

そこで金額ベースで鉱業の大部分を占める翡翠産業の規模から国軍系2社の規模を類推してみます。

国際NGOのGlobal Witness(2015)は、中国側の中国のミャンマーからの翡翠等の輸入額が2014年だけで123億ドルであったことやその他の分析から、2014年に採掘され公式に記録された翡翠だけで最大3兆円相当の価値があったと推計しています。これはミャンマー国内総生産の約半分にあたります。(つまり公式統計に表れていない分、政府が把握していない分がすごく大きい。)

この点、中国側の同統計は、前後の年と比べて2014年が飛びぬけて大きな数字となっていて、これは主にその年特に翡翠の価格が高騰したことが大きな要因のようです。また、ミャンマー側の公式発表では金額ベースの翡翠生産は年間1000億円前後と驚愕の開きがあります。

もちろん、Global Witnessもそのあたり分かった上で推計しているのだと思いますが、個人的に、3兆円はやはり過大推計ではないかと思っています。実際、その後、Natural Resource Governance Institute等がGlobal Witness(2015)の推計をトレースして再検討したところ、7000億円程度と再推定しています。

なので後者を採用すると、公式に報告された産出量ベースで翡翠の金額ベース産出は毎年7000億円前後だと仮定します。このうちMEHL、MEC、子会社/孫会社の生産分が、少なく見積もって2割程度とすれば約1500億円

推計①では2社の全業種連結で4000~6000億円だったので、翡翠関連で1500億円というのは感覚的にも大きなはずれはなさそうです。

まとめ

確定的な公表数字がない中で、フェルミ推定的に計算してみましたが、国軍系企業の生産額/売上高は4000~6000億円程度で、国営企業の合計額と同じかそれ以上であると考えておけば大きな間違いはなさそうです。

但し、公式統計にない部分や、国軍が重要な影響を及ぼす(通常の意味での"関連会社"の定義に当てはまり得る)国軍幹部の家族や親密な友人の会社・事業などを含めれば倍以上の規模感となる可能性が高いことも付言しておきます。

(注)ミャンマー国内総生産は約6-7兆円。

信憑性があると考えるか否かは皆様次第ということで宜しくお願いします。

(使用した情報・レポート)
・Global Witness(2015), "Jade: Myanmar's Big Secret"

・UN Independent International Fact-Finding Mission on Myanmar(2019), "the Economic interest of the Myanmar military"

・Myanmar Extractive Industries Transparency Initiative(2020), "The Fifth Myanmar EITI Report"

・Amnesty International(2020), "Military LTD- the company financing human rights abuses in Myanmar"

・Natural Resource Governance Institute (2016) extracted from https://openjadedata.org/Stories/how_much_jade_worth.html