みんなと分かるミャンマー

ミャンマーの平和を願う日本人です。

「人道的支援」は危険?

先日、イワワジ誌に「人道的援助の強調はミャンマー危機を悪化させる」との論考が掲載され、ハッとさせられました。

著者は、ボスニア生まれの(今はミャンマーで活動する)人権活動家で、自身が紛争中の自国で人道的支援をした経験をもとに、ミャンマーの今のような状況における「人道的援助」で気を付ける点を指摘しています。

一つは、人道危機への対応が喫緊の課題として優先されやすく、危機の根本的な原因に対する議論が深まらないかもしれないということ。

もう一つは、人道主義に基づくアプローチは、そこにある危機を生んだ責任の所在を曖昧にしてしまうかもしれないということ。

安易な「人道的援助」はむしろ人道危機の原因を温存し続けることになりかねないという意味で危険だとのことです。

著者は、国際社会が一刻も早く、国民統一政府(NUG)をミャンマーにおける唯一の正当な政府であることを認めるべきだと主張しています。

 

翻って「人道的支援」は確かに錦の御旗的に扱われ、とりあえずやっておこうという思考になりやすいのは確かだと思います。やった気になるという側面もあるでしょう。

しかし、客観的に見て、現在のミャンマー問題の根本原因に対し国際社会が採るべき「実効的な」行動指針として、コンセンサスと言えるものはないでしょう(残念ながら)。従って国際政治の中でバランスをとりながら進めなければ、深刻なイデオロギー的対立(一例として、内政不干渉vs際限なき人道的介入、民主主義の強制)を煽ることになり、国家観の対立もエスカレートしてしまうのではないか。

 

ミャンマーの人たちが、声を上げているのに国際社会が満足のいく行動をとってくれないと感じる現状には、このような背景があるものと理解しています。イラワジ誌の記事は、だからといって人道支援(だけ)に逃げず、考えることや議論をやめてはいけないという警鐘として受け止めました。

 

最近出された以下の二つの論考は、実効性ある行動指針の候補として議論に値すると思ったので、自分用メモのつもりで概要を書き留めました。

 

アンドリュー・オング氏(文化人類学者、ミャンマー研究者)

⇒ 一言でいうと、国際社会は、民主派側と少数民族勢力の更なる骨太な対話を促すべき、ということ。

私が重要だと思う著者の主張部分は、以下二つ。

  • 少数民族武装組織(Ethnic Armed Organizations: EAOs)を、単に民衆の助けとなり得る武装勢力」や「ワイルドカード(解決策的なもの)」だとみてはいけない
  • 国民統一政府(National Unity Government: NUG)、国民防衛軍(People's Defense Force: PDF)など民主派が、EAOsとどのように向き合うかで、二つのシナリオがあり得える。後者を辿ってほしいし、国際社会はそのために何ができるか考えるべき。

シナリオ1:EAOsと軍との戦闘が一定のレベルを超え、中国政府にとって重要な事業が脅かされることで、中国政府の関与が強まる。その意味では戦闘の激化は軍への支援を強める結果になるかもしれない大きな賭けとなる。

シナリオ2:EAOsとNUGの連携が全民族的な紐帯の形成に向かう。戦後長く続いた内戦を終結させるという観点では、軍政とNLDのどちらもEAOsとの意義ある取組ができなかった。そしてそれが現在、(少なくとも一部の)EAOsから全面的なNUGへの賛同や積極的な連携が得られていない原因であり、この解決こそがEAOsとNUGの連携の目的であるべき。

 

タンミンウー氏(歴史学者

⇒ 一言でいうと、歴史を理解し細心の注意で人道支援を行うとともに、中国をなんとか説得すべき、ということ。人道危機を悪化させないためにも、軍と関係ない民間事業は奨励すべきとも。

私が重要だと思う著者の主張部分は以下。

  • ミャンマーはもう戻れないところまで来ている。軍は、短期的には力ずくで統治できるかもしれないが、安定には程遠いもの(failed state)となるだろう。
  • 現在の危機は、2月クーデターのみによる産物ではなく、数十年にわたる国家建設への取組の失敗の結果である。
  • 短期的な解決を望むには、ミャンマーという国が抱える歴史、経済及び社会の課題は複雑すぎるし、軍への憎悪は大きすぎる。(この辺りかなり紙面を割いて解説していましたが、長いので当ブログのこちらで概要を把握していただくとよいと思います。)
  • この国の平和的な未来は、これまでとは根本的に異なる(過去の民族主義的主張から解放された)国民意識と政治経済の変革によらなければ成しえない。
  • 悲観的になる必要はない。2月以降起きていることは、喜ばしい未来が、国民、特に若い世代から来るであろうことを予期させる。変化は内側から起こすしかないが、国際社会も以下のように、変化に伴う苦痛を和らげることができる

①選挙で選ばれた文民政府への早期かつ平和的な移行を要求する国連安保理決議に賛成すること。軍政は中国の「暗黙」の支援さえあれば生きながらえることができるため、中国の賛同が必須であり、それがなければ如何なる決議も実効性を持たない象徴的なものに留まる。

民主化運動だけでなく、人権侵害などを監視したり、政治犯釈放に向けた交渉を支援すること。但し、民衆に国際社会がすべてを助けてくれるという間違った期待を抱かせないことが重要である。

③国際社会からの支援は、ミャンマーのユニークな歴史(例えば長い間厳しい制裁をものともしなかったことや軍政下で形作られた将軍たちの心理など)を理解した上でなされる必要がある。これまでのような「飴と鞭」政策は利かない。

人道支援はなされなければならないが、支援物資が軍政にわたらないように細心の注意を払うべきである。人道危機を悪化させないように、軍と関係せずに事業を行う責任ある多国籍企業は、ミャンマーに留まるよう奨励されるべきだ。

それではまた。

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